先日、読売新聞やテレビ報道で、千葉大で開発された取り組み「物理実験教育用机上組立式装置(パーソナル・ディスク・ラボ)」(以下PDL)が取り上げられました。
PDLとは、小さなスペースで簡単に本格的な物理実験ができる組立式の装置のことです。B5サイズの鉄板の上に、実験に必要な部品を磁石で貼りつけ、物理の法則を定量的に確かめることができます。光の回折、光の屈折、天秤を使った力の実験、等電位線の測定、磁場分布の測定など、 7つの実験が開発され、さらに多くが計画されているようです。
小さいだけでなく、従来の実験装置より安価であること(2〜3万円)、学習者が一人で、器具の置く場所を変えたりいろいろな操作を自分の手でしたりして、物理現象とより密接に関われることが大きな特徴になっています。
PDLの初期の構想には、教育学部教授(理科)の東崎健一先生と、大学院生のスー・カリヤンさんが主に関わっていらっしゃいます。現在千葉大学大学院理学研究科後期博士課程に在学しているスーさんは、昨年度、教育学研究科での修士論文『物理実験教育用机上組立式装置(PDL)の開発』をまとめました。
このPDLを作ろうとしたきっかけは、東崎先生がカンボジアにあるプノンペン大学のインへン(Ing Heng)物理学科長から、日本とカンボジアの物理の実験授業が “very, very different”( とてもとても違う ) と言われたことからだそうです。カンボジアでは、物理現象に生徒たちが出会うことが極端に少なく、物理の実験もほとんどなされていないそうです。これに対して日本では、十数万円以上する大型の実験装置を使って、物理の実験を行っていました。カンボジアと日本の物理実験教育の違いに驚かれたのです。
一方で東崎先生は、日本の大学における物理の実験が、高価で大型の実験装置を使っているため、一人ひとりに行き渡らず、実験を眺めるだけの生徒がどうしてもでてしまう現状を問題と考えていました。インへン学科長との話をきっかけに、どのようにしたら安価でかつ一人ひとりが物理現象に出会うことができるのかを考え始めました。そこに、ちょうどプノンペン大学物理学科の助手をしていたスーさんがカンボジアでの物理実験導入を目的のひとつとして東崎先生のもとで研究することになり 、 東崎先生とスーさんの二人三脚でPDLの開発が始まったのです。
東崎先生は「日本にだけ目を向けていたら、物理の実験装置にしても、現状を維持するだけでよいと思ってしまい、こういう問題意識は起こらなかったと思います。」と言います。
このようにして開発されたPDLは、千葉大学の外でも徐々に実際の授業で生かされています。たとえば県立千葉高校では、40セットで9クラス、のべ380人が物理の実験を行いました。またSSH(科学技術・理科・数学の教育を大学等の研究機関と協力し、特定の高校で重点的に行う取り組み)として文部科学省から認定された大阪府立住吉高校では遠隔での実験授業が試みられています。
このPDLを効果的に授業の中で使うための工夫がこれから取り組むべき課題だとスーさんは言います。実際の授業の中で、効果的にPDLを使ってもらうためには、実験の適切なアドバイスを行えるように、遠隔教育のノウハウも必要になります。またそのようなノウハウを生かしてカンボジアやベトナムでもPDLを使って物理の授業をしたいとのことでした。
「テレビ番組等では、印象に残る実験、ビックリするような実験が多く取り上げられます。それらの実験は確かに、物理現象に興味を持つ入り口にはなります。ただ、学問として法則を理解することや、定量的な測定という次の体験のステップにつながるかと言われると、決して十分ではありません。大学や高校では、このような次のステップの実験が望まれていると思います。」と東崎先生はおっしゃっていました。一人ひとりが物理現象に深く関わり、理解することをPDLは可能にしようとしています。
(千葉大PDLホームページ) http://gp.pdl.chiba-u.jp/pdl.html
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